袖振り合うも他生の縁

昨日は、昼前から落ち着かず、勉強が手に付かなかったので、まあいいや、と研究室をサボって*1、お気に入りコースの1つの清水寺散策をしていました。それでね、最近こんなとき、やたらいいタイミングで、いい人に会うのですよ。会いたいなと思っていた友達に、偶然ばったり会って、話が弾んだり、そんで僕がたまたま変なもの持ってたりして、それへのリアクションで、友達の意外な一面が知れたり。道ばたで偶然相席した人とも、そんな調子でやたらと会話が弾むんです。いったいどこからこんな強運がやってきたのか不思議なくらい。まぁ、それだけ積極的に外界と関わろうとしだした成果がいま出ている、ということで、素直に喜ぶべき事なのかもしれません。


前振りはそんなんで、昨日は昼時に清水寺に行きました。もう暑くて食欲も一気に減退したもので、たまたまちらっと見えた食堂に入って、ざる蕎麦と生ビールを注文、いやー、夏の昼食にざる蕎麦と生ビールってのも、いいもんだなぁ、と1人、新発見のメニューに悦に入っていたら、隣のテーブルの観光客(家族3人)から、聞き覚えのあるイントネーションの会話が聞こえてきました。


ちょっと酔っぱらってるのと、向こうが、注文した品がくるまでの時間を持て余しているように感じたので、ここは弄ろうかと、「失礼ですが、もしかして○○から京都に観光においでになったのですか?」と聞いたら、「惜しいですね、その隣の△△ですよ。確かに方言は似ているところあるかもしれませんね。家内は○○と△△の境目の町出身ですし。」という会話から始まって、その観光客がしゃべるしゃべる…

しかも、せいぜい70代くらいの老夫婦だろうと思っていたら、旦那さんのほうは90代、奥様は80代だとか。めちゃめちゃ若いし、言語もすごく明瞭なのですよ。驚きを隠せないでいたら、旦那さんは気分がよくなったのか、人生を語り始めてくれました。

(ぼくはもう蕎麦とビールを頂いて、お茶をすすっていたところなので、じっくり聞く体制だったんです)

私は薩摩出身でね、大学は京城帝國大学*2、そこから造船所へ勤めて、今はまた九州に戻っているのですよ。途中に仕事の関係で、しばらく京都にいたこともありました。五条小学校のあたりかな。息子がそれぞれ東京と名古屋にいましてね、時々こうやって出て来ては、ついでに京都観光をしているのですよ。

け、京城帝国大学ですか・・・。待ってくださいよ、そのお年でということは、いまこんなにお元気なのですけど、どこかで戦火をくぐり抜けてこられたわけですよね、何か大変な目に会われたりしませんでしたか?

(予想外の反応にびっくりしつつも、なんか、機嫌が一段とよくなって)
面白い事聞くんですね。
確かに私は大学も出まして、机上の仕事の方面に行きましたから、本当の戦地へ行く、ということは運良くなかったのですよ。でもね、やはり、朝鮮と内地の往復中に何度か、船が米軍機からの機銃掃射を受けましてね、沈没して、浮き袋の世話になったことがありましたよ。そのときは、私はなんとか無傷だったのですが、同僚に泳げないのがいてね、やはり、それまでだったり、浮き袋が掃射でやられた者もいましてね…(遠い目)


( ゚д゚)…。(待て待て、これ国際法違反っちゅうやつだよな。米軍機が民間人を機銃掃射… なのに平然と話してるよこの人。)
はぁ、、そうだったんですか…。同僚のかたは可哀想な… これも運命だったと思うしかないのでしょうかね・・・。

(ニヤリ)*3私が生き残ったのも、運命だと思うことにしたのです。だから今日まで、彼らの分まで頑張ろうとしてきたから、今ではのんびりと老後を楽しむ事ができるのだと思うんですよ。

(ぐはっ、涙腺が・・・(TAT) )
そ、そうですね、それはご立派なことだと思います。きっと同僚の方々も、草葉の陰で喜んでおられるでしょうね。

ところで、あなたは御若いわりには落ち着いているように見えるけれど、何かされてますかな?


は、何かと申しますと?
あ、ああ、私は大学院で生物学をやっていまして、いま博士課程にいます。

それはよろしいですな。しかし、今は大学の時間では?

(ギクッ)い、いやぁ、この後夕方に大事な人と会う用事がありまして、落ち着かないものですから、気晴らしに出て来たのですよ。

(ニヤリ)ほう。うまくいくといいですなぁ…。まぁまだ若いから、駄目だったとしてもあまり気にせんで、まだ未来がありますから、頑張りなさい。


は、…はぁ…。
(まさか、この老人全部見抜いてる・・・のか? ((((;゜Д゜)))ガクブル )



・・・・・・



この後、自分の専攻テーマやら、趣味やら、出身地やらの話を根掘り葉掘り聞かれて、すっかり仲良くなってしまいました。名前まで聞かれて、いやいや、九州の○○市にくる事があったら、是非××の町においでなさい、案内してあげよう。 …はい、そのときは是非、とそんな約束までしちゃいました。

京都には日本中から観光客が来るのですけど、たまにはこんなのが混じっていたりするから油断がなりません。みんなも町で、気品のある観光客を見かけたら、邪見に扱うものじゃないですよ。そうするときっと良い事あります。

*1:ちゃんと関係各所には根回しをしてからサボったので、社会的にも許容されるレベルですよ。

*2:待ってください、今90代の年齢で、昔大学へ通えて、しかも帝国大学ですか。つまりね、当時の超エリートですよこの御方。道理でただならぬ気品が漂い、言葉遣いも奇麗で明晰なわけです。

*3:この老人、僕の内面の反応をきっとほぼ見抜いています。うむうむ、ちゃんと気づきおったか、賢い若者じゃと、目と口元で語りました。